<特集>匝瑳メガソーラーシェアリング 農地創出プロジェクトの全貌(1)

緑豊かな農地の上に、大規模な太陽光発電設備が誇らしげに並んでいる。その規模は1MW(メガワット)。ソーラーシェアリングとしては、日本最大級だ。しかもこのメガソーラーは、決して環境を破壊しない。それどころか、地域の悩みの種だった「耕作放棄地」を美しい農地に変えてしまった。「農地創出」を実現する、究極の環境調和型メガソーラーなのだ。

(※メイン写真は、匝瑳メガソーラーシェアリング第一発電所、2017年9月現在の様子。)

 

[市民エネルギーちば]

目指したのは地域の問題解決 その先にある22世紀のムラづくり

共にプロジェクトを立ち上げた「匝瑳ソーラーシェアリング」の椿代表(右)と「市民エネルギーちば」の東代表(左)。

ソーラーシェアリングで 耕作放棄地の解消を実現

「この土地は、40年以上前に、山を削って畑にした場所だったのです。しかし、水はけが悪く、痩せていて、畑には不向きでした。一時はタバコ栽培をする農家もありましたが、15年ほど前に止めてしまって、以来ずっと耕作放棄地になっていました」。 そう話してくれたのは、匝瑳ソーラーシェアリング合同会社の椿茂雄代表。この地域代々の農家でもある椿さんにとって、拡大する耕作放棄地は心の痛む問題だった。 それは、同社の母体である市民エネルギーちば合同会社の東光弘代表にとっても同様。東さんは、「ソーラーシェアリングの意義は地域活性化の切り札になるところにある」と断言する。

地域のことを一番に考えて 売電益を環境保全に活かす

地域のお荷物になりかけていたその土地は、いまでは大きな自慢の種だ。2017年4月に誕生した「匝瑳メガソーラーシェアリング第一発電所」は、本格的なソーラーシェアリングとしては日本初の1MW級大規模太陽光発電所。そしてなにより、耕作放棄地だった土地を、農地として再生させることに成功した日本随一の事例なのだ。 この土地には複数の所有者がいたが、まずは地元農家である椿さんが、地権者の賛同を得るべく奔走した。こうしたビッグプロジェクトにおいては、地域の合意形成が最も重要な立脚点だからだ。 発電設備の構想は東さんが中心となって練り上げ、トラクターも自在に動ける大規模ソーラーシェアリング設備をつくりあげた。 太陽光パネルの下での農作業は、地域の農業生産法人であるThree little birds合同会社に、年間200万円の耕作委託料を支払い、請け負ってもらう。もちろん、この原資には、ソーラーシェアリングによる売電収益の一部が充てられている。 売電収益は、この他、地域の協議会に環境保全基金として年間200万円拠出される。このお金の使い道は、受け取った協議会の自由。本年度は、廃棄物が不法投棄されている場所をきれいに整備し、花を植えて憩いの場所にするために用いられるという(下図参照)。

成功事例の確立が使命 真に豊かな地域を目指して

椿さんは、この取り組みを、自分たちの使命だという。 「耕作放棄地が拡大してしまうのは、採算性が悪くて、農業を続けたくても続けられない農家が多いから。ソーラーシェアリングによる売電で安定収入を得ることができれば、状況は変わってきます。耕作放棄地も少しずつ減少していくでしょう。私たちは、まず、そういう具体的な事実をつくりたい。今まで放棄され、将来の見通しが立たなかった土地を再生させることができれば、地域は必ず良くなります。そして、そういう事実は、全国に拡がっていくだろうと思うのです。だから、とにかく、成功という事実を揺るぎないものにすることこそ、私たちの使命だと考えています」(椿さん)。 そして、東さんは、ソーラーシェアリングをベースにした22世紀のムラに想いを馳せる。 「ソーラーシェアリングに興味をもって、多くの人々が訪ねてきてくれます。県外から移り住む人も増えてきました。これからは、この地をより魅力的な場所にしていけるよう受け入れ態勢を整え、来た人に喜んでいただける加工品もつくっていきたい。ソーラーシェアリングの麦からできたビールなど、新しい特産品が生まれる予定です。そして、食とエネルギーの自給自足ができ、健やかな環境と心豊かな文化が息づく、次世代のムラづくりをしたたかに実現できたらと思っています」(東さん)。 ソーラーシェアリングの郷・匝瑳からは、これからも目が離せそうにない。

 

匝瑳メガソーラーシェアリング第一発電所/設備容量:1MW、土地面積:約32000㎡、導入年月日:2017年3月、導入費用:約3億円、年間の予想売電収入:約4700万円、作物:有機大豆、有機麦

 

耕作放棄地だった頃の面影は、もうない。いまや日本中から見学者が訪れる最先端の圃場だ。

 

[すべては、ここから始まった!]

日本初の市民出資型 ソーラーシェアリング

匝瑳第一市民発電所

設備容量30kW 、2014年9月、売電開始。これが、市民エネルギーちばのソーラーシェアリング第一号機だ。市民出資によるパネルオーナー制度を導入し、土地を持たない人でもソーラーシェアリングに参加できるようにした。

 

太陽光パネルの裏には、それぞれのオーナー名が記されている。パネル1枚25000円で購入すれば、売電収益から毎年利益が還元される。

 

問い合わせ:市民エネルギーちば合同会社 千葉県匝瑳市飯塚1037-1 www.energy-chiba.com

 

photo: Kumiko Saotome text: Kiminori Hiromachi

(「アースジャーナルvo.5」より転載 ※一部再編集)

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