ソーラーシェアリングが拓く新しい地域エネルギーと農業/連盟シンポジウムレポート(2)

去る5月31日に開催されたソーラーシェアリング推進連盟による設立記念シンポジウムより、後半のトークセッションの内容をご紹介する。

異なる立場で語られる、ソーラーシェアリングの価値と未来

本トークセッションは、連盟代表理事である馬上丈司氏の進行のもと、池田真樹氏(横浜環境デザイン)、辻井隆行氏(パタゴニア日本支社)という、ある意味異色の顔ぶれで行われた。

 

ソーラーシェアリングとの出会いについて

池田氏:弊社は1998年から太陽光発電事業を初めており、業界では古い方の会社です。実はソーラーシェアリングについて、私は当初否定的でした。というのも、営農のことを考えるとパネルを高いところに設置せざるを得なくなる。ローコストを目指していかなければならない太陽光発電では、施工する人間の立場から考えると、架台や設置費用などにどうしても余分なコストがかかってしまうだろうという考えからです。しかし、現在は山を切り崩して環境を破壊しながらメガソーラーを作っていかなければならなくなっている中で、ソーラーシェアリングはこれからの太陽光発電業界にとって、進めていかなければならない事業だと考えています。

辻井氏:会社としては、環境問題には’70年代から取り組んでいま す。アウトドア・アパレルメーカーとして、環境への負荷を最小限に抑えて事業を展開する責任があると考えているからです。環境破壊の大半はビジネスによって引き起こされていると言われています。実は、中でもアパレル産業は、エネルギー産業に続いて環境に負荷をかけているとも言われています。洋服を作る過程で、多くのエネルギーと水が使われ、たくさんのCO2を排出しています…我々にできることは、まず、そうした環境へのインパクトをできるだけ抑えていくこと。同時に、パタゴニアでは、’85年から33年間に亘り、売り上げの1%(累計約100億円)を環境団体に寄付しています。その中には有機農家への支援も含まれます。また、自分たちだけで環境問題に取り組むのではなく、志を同じくする方々への投資も行なっています。現在までのところ、そのほとんどがソーラー関連事業に対する投資です。ここ日本でも、ソーラー、特にソーラーシェアリングに投資していけたらと考えています。

 

 

ソーラーシェアリングの農業はどう行った関係性で進化して行くべきか?

馬上氏:ソーラーシェアリングにおいて、パネルの下の農業をどうしていくかも非常に重要になってきます。お二人にも関係の深い千葉県・匝瑳市の事例では、それをオーガニック=有機で進めるんだということになっていますし、池田さんのところのように植物工場であっても、使うエネルギーをいかにクリーンなものにするかということは今後課題になってくると思います。農業と自然エネルギーがどうやって融合していくべきか、どういった関係性の中で進歩していくべきかについて、一言ずつお願いします。

池田氏:おっしゃったように、我々は横浜で野菜工場を運営しています。日本のエネルギーと食料の自給率を上げるということを考え、「ネクスト太陽光」というよりも「太陽光事業とともにやっていく」という意味で始めたものです。完全密閉型のLEDによる水耕栽培なので電気を大量に消費するのですが、それを再エネでまかなえれば持続可能性もあるのではと考えて実験を重ねています。農業自体も、福島県で本当に少々ではありますが、やり始めているところです。私自身、横浜生まれの横浜育ちですが、横浜のようなところではメガソーラーを作ることはできません。電気を作る場所と需要地を極力近づけることで、電力の地産地消を目指していきたい。どうやったら都市部の大きな電力消費を再エネで賄えるのか…その一つの答えとして、野菜工場だったり、あるいは横浜にもたくさんある農地の上で発電したりして、周りの住宅地や企業で使うという仕組みが、これからやっていかなければならないことではないかと感じています。

辻井:パタゴニアの本社はアメリカにあり、支社はヨーロッパや日本、それ以外にも世界20カ国ほどでビジネスを展開しています。いわゆるグローバル企業のミッションとして、事業そのものを使って、いかに 環境問題の解決に貢献していくか。環境問題というのは言葉を聞くと環境の問題のように思われがちですが、実際は人間の問題です。仮に人間がいなくなっても地球は困りませんから。人間が持続的に暮らしていくために、気候変動の問題に対して、できることは2つ。一つはCO2、温室効果ガスの「排出」をいかに減らすかということ、もう一つは、大気中に出てしまったCO2をいかに「地中に戻すか」ということです。CO2の総量自体は変わらないのに、大気中と地中の量のバランスが崩れているのですから、もう一度、地球が持つ自浄作用の大切な鍵である健全な海、森、土 壌を取り戻す必要があります。土壌の健全性を取り戻す、その優れた技術 としての有機農業を増やしていくことで、CO2を土壌に戻しつつ、身体にいい野菜を作ることもできる。通常、有機農業はリスクが高いと言われている中で、ソーラー発電がそれをカバーするという意味で、CO2の排出を抑えるということと、土壌にCO2を戻すことが同時にできるソーラーシェアリングを知った時には、本当に驚きました。

ソーラーシェアリングで作ったエネルギーをどうして行くか? 価値ある電気になっていくのか?

 

馬上:現状は、FITの制度の中で全量売電して、例えば関東であれば東京電力に買ってもらって電気は需要家の元に届いている。実質的には配電網の中でもロスがあったりと色々あるんですけれども、私自身ソーラーシェアリングにおいて興味があるのは、「価値のある電気になっていくか」ということです。池田さんはご自身で新電力事業もやっていらっしゃいますし、辻井さんはグローバル企業に身をおく立場で、どういった電気を調達するかということを考えておられると思います。お二人に伺いたいのは、地産地消電源としてのソーラーシェアリングによる電気というのは、どういったところに価値があるのか。そしてそれを(需要家に)どのように訴求できるか、という部分です。

池田:現在我々は、「ヨコハマのでんき」という名前で新電力事業をやっています。そのテーマは、(電力の)小売業界に殴り込みをかけるとかではなく、太陽光発電を中心とした再生可能エネルギー(発電者)の良きパートナーとして小売事業をやって行きたい、ということです。ソーラーシェアリングの上で作った電気について、私自身はもちろん価値があると信じていますし、地元横浜でもそういう風に訴求しながら、理解・賛同してくれる需要家を探しながらお届けしていくというのが使命だと考えています。実際、営業に同行する機会もあるのですが、電気の値段は問わず、環境に優しい電気を使いたいという需要家の方々が多くいらっしゃいますので、そういう意味では事業への自信を深めるとともに、「いよいよそういう電力消費の時代になりました」ということをお伝えしていくことも、続けて行きたいと思っています。

馬上:辻井さん、企業活動においてエネルギー調達を考えるときに、本日も来場いただいているソーラーシェアリング実践者のみなさんをはじめ、やはり地元の電気を使って欲しいというのもありますし、普通のソーラーと違って、いわば「ストーリーのある電気」を使うということに対しては、ポジティブな面もあると思います。同時に作る側にとっては「何を訴求したら(パタゴニアのような企業に)使ってもらえるのか」といった疑問もあります。その辺りについていかがですか?

辻井:パタゴニアは、それほど大きな会社ではないのですが、これまで他の企業の方々と接する中で伺ったお話も思い返して見ると、「気候変動」という言葉とともに潮目が変わってきたように思います。石炭・石油とい った化石燃料で、気候変動に影響を与えるようなリスクのあること をビジネスの主軸にしているところからは、お金がどんどん撤退していっている。大きな企業であればあるほど、将来のリスクを把握して計画を立てるわけですから、そこ(化石燃料)を当てにしないという企業戦略になっていっていると思うんですね。そんな中で自分たち自身がどんなエネルギーを調達しているかということについては、今の世の中隠すことはできませんから、「人に言っているのに自分たちではやっていない」というのは大きなリスクにつながりますし、(調達しているエネルギーが)再生可能エネルギー100%だということを謳っている企業、特に外資系企業はすごく多いです。当然自然エネルギーを自分たちで作っていくということも、加速していくと思っています。自社のサイト、例えばオフィスとか工場の屋根にソーラーを載せるみたいなことから最初はスタートして、徐々に100%に近づけていくというような話もあったと思いますが、とてもじゃないけど容量が足りない、と。すると、アップルやイケアのように、自社のサイト以外のところで、投資をして発電する施設ごと作っていくことも始まりました。僕は、大学で10代・20代の方々に話す機会が時々あるんですが、彼らはいわゆるデジタルネイティブと呼ばれる30代・40代の方々のさらに次の世代で、つまり「環境ネイティブ」なんだということを感じることが少なくありません。つまり、「このままいくと(地球は)どうなるの?」というのを、小さい頃からみている世代でもある。その中で先ほどからお話に出ている、例えば山をガンガン削ってソーラーパネルを載せて発電して、それは自然エネルギーだからいいんだっていう、そういう物差しではなくなってくるんだろうな、というのをすごく感じます。物を買うとき、洋服を買うときでも、その値段とかデザインとか、スペックというのはネットでもお店でもわかりますが、その背景にある「誰がどこでどんな想いで洋服を作っているのか」ということはほとんどわかりません。洋服というのは、環境問題だけでなく人権問題もすごく引き起こしてます。コットンなんて、それこそ農産物ですけど、綿花の栽培で毎年3万人が命を落としている。そんな話を彼らにすると、とても真剣に耳を傾けてくれる。そういうことを気にして自分のお金を使うという世代にだんだんなってきているんだと思います。そういう意味で、企業側もそういうことを踏まえた事業展開の方が、将来的には必ずリターンは大きいでしょうし、消費者にも選んでもらえるだろうと、個人的には考えています。ソーラーシェアリングに関して言えば、企業と直接提携して設備を整え、その企業に電力を調達するという形も、可能性が十分あると思っています。

問:「ソーラーシェアリングのこれからに必要なモノ・コト」

トークセッションの最後に、事務局の鈴木幸一氏が登場、ちょっとしたワークショップも行われた。

「ソーラーシェアリングは、本来草の根的で市民的な物。そういう意味で、こういう場で壇上から一方的に話をするというのは、ちょっと残念。推進連盟をこれから進めていくのに、来場者のみなさんの知恵が本当に必要だし、もっと色々相互にやり取りしていく形も作りたいと考えている」と鈴木氏が取り出したのは、あらかじめ来場者にも配布されていた白紙。これに、提示された問いかけの答えをそれぞれが考え、書き込んで欲しいということだった──。

レポートを終えるにあたり、会場で登壇者や来場者がどんな回答を書き込んだかについては、ここではあえて触れずにおきたい。なぜなら、読者のみなさんが果たしてどのような回答を書き込むのか、それこそが大事だろうと思うからだ。

photo Satoshi Kaneko

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