【特別寄稿】馬上丈司氏/ソーラーシェアリングとSDGs – ソーラーシェアリング2.0へのシフト –

ソーラーシェアリングを取り巻く環境が大きく変化し始めている昨今、我々はどんな未来を見据えていかなければならないのか…ソーラーシェアリング推進連盟代表理事の馬上丈司氏による特別寄稿記事をお届けする。


【特別寄稿】

ソーラーシェアリングとSDGs – ソーラーシェアリング2.0へ

一般社団法人ソーラーシェアリング推進連盟 代表理事 馬上丈司

 

ボトムアップで広がるソーラーシェアリング

誰でも太陽光パネル1枚あれば電気を作って使えて、それが都市でも砂漠でも極地でも宇宙でもできてしまう、これが他の自然エネルギーにはない太陽光発電の大きな特徴です。その中でも、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)は、農地を活用して農業と自然エネルギー発電を両立させるという、これまでにない太陽光発電事業であり、農業モデルです。

1990年代から、太陽光パネルの技術開発と生産量で長らく日本は世界トップを走ってきましたが、2000年代に入って住宅用太陽光発電の補助金打ち切りなどで失速しました。2000年代後半にはシャープや京セラ、三洋電機が太陽光パネルの世界出荷シェアトップ10に入っており、シャープは世界トップでした。それが、今はトップ10に日本企業は1社もありません。

大きく地盤沈下してしまった我が国の太陽光発電産業の中で、ソーラーシェアリングは新たな日本初の太陽光発電技術として世界から注目されています。現在、国内では2,000件以上のソーラーシェアリングが導入されており、その広がりと多様性は世界でも日本だけという状況です。

2013年に、農林水産省が農地と一時転用許可という手法でソーラーシェアリングの設置を正式に認めるようになってから、FIT制度による太陽光発電産業の活性化と相まって普及が始まりましたが、FIT制度による各種自然エネルギー発電と違い、政策的にトップダウンで普及が促進されたというよりは、農業者を中心とした地域からのボトムアップで増えてきています。このボトムアップによる普及というところが重要で、自然エネルギーが持つポテンシャルを大きく活かす取り組みが出来つつあります。

馬上氏が代表取締役を務める千葉エコ・エネルギーが運営するソーラーシェアリング「大木戸アグリ・エナジー1号機」(千葉県千葉市緑区大木戸町)

 

ソーラーシェアリングとSDGs

当初は「売電収入による農業者の所得の向上」が、農業経営の安定化や耕作放棄地の解消に役立つと評価されてきたソーラーシェアリングが、「持続可能な開発目標」(SDGs)に対する社会的関心の高まりによって、更なる役割を期待されるようになってきました。

農地を保全し、自然エネルギーを生み出し、農業者と地域の所得向上に貢献するに留まらず、例えば以下のような取り組み効果や可能性もあります。

 

       ※農地での電源創出で農業IoT技術の導入促進
       ※農地の回復や保全による地域の環境保全
       ※無電化地域での電源確保 
       ※ 農業の再興による地域関係人口の増加
       ※ 都市への資源供給地として農村が再評価
       ※ 自然エネルギーを活用した新たな農業モデルの模索

 

このように、ソーラーシェアリングが導入されることによる社会への影響は計り知れません。

農林水産省が開設したSDGsガイドページ「農林水産業 × 環境・技術 × SDGs」では、このソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)をSDGsの各目標の中から、 7(エネルギー)、8(働きがいと経済成長)、9(産業と技術革新の基盤)、11(住み続けられるまちづくり)、13(気候変動)に該当するものとして紹介していますが、私としてはこれに1(貧困)、2(飢餓)、15(陸の豊かさ)も加わると考えています。

 

大木戸アグリ・エナジー1号機」では、地域の内外から参加者を募って収穫祭を開くなど、SDGsに向けた実践が続いている

 

「ソーラーシェアリング2.0」へ

日射が強すぎたり、十分な灌水ができなかったりして農作物が育たないような地域でも、太陽光パネルによる遮光環境と、その電気を使ったポンプの使用によって水を得て、これまでより良好な生育環境を作れる可能性があります。

そして何より、我が国でも将来的に貧困や飢餓に見舞われないという保障はありません。世界的に人口が増加して食料需要が増え、国内的には貧困世帯が増えていく中で、国際的な食料価格の高騰などで輸入が細るようなことになった時、国内生産される食料でそれを少しでも賄える体制を作っておかなければ、現代日本でも食料不足は起こり得ます

また、国内農業に使われるエネルギーの95%以上が化石燃料を直接燃焼させており、どれだけFIT制度などで自然エネルギー発電を増やしていっても、化石燃料が入ってこなくなれば農業生産自体が困難になってしいます。

ソーラーシェアリングとSDGsの関係性を考える時、実は私たちが10年後や20年後に同じような豊かな日々を送れるかどうかが、危ぶまれる時代になっていることを実感することにもなるのです。

これまで、農林水産省による営農型太陽光発電拡大の意義として謳われてきた「売電収入による農業者の所得向上」から、このSDGs達成に資する社会的役割の多様化へ貢献するモデルへのソーラーシェアリングの発展は、「ソーラーシェアリング2.0」へのシフトだと言えるでしょう。SDGsとの関わりを切っ掛けに、日本発の技術であるソーラーシェアリングを、国内で普及させていくのみならず、人類社会のエネルギーと食料生産のあり方を変える新たなモデルにしていかなければならないのです。

 


profile

馬上 丈司(まがみ・たけし)/一般社団法人ソーラーシェアリング推進連盟代表理事

1983年生まれ。千葉エコ・エネルギー株式会社代表取締役、株式会社エコ・マイファーム代表取締役。千葉大学人文社会科学研究科公共研究専攻博士後期課程修了、専門はエネルギー政策、公共政策、地域政策。2012年10月に大学発ベンチャーとして千葉エコ・エネルギー株式会社を設立し、各地で自然エネルギーによる地域活性化事業に携わる。また、ソーラーシェアリングの推進・拡散に向けて、導入者へのコンサルティングや各地での講演、関係省庁との情報交換などを精力的に進める。2018年4月、「ソーラーシェアリング推進連盟」設立に参加、初代の代表理事に就任。

 

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