<特集>匝瑳メガソーラーシェアリング 農地創出プロジェクトの全貌(2)
緑豊かな農地の上に、大規模な太陽光発電設備が誇らしげに並んでいる。その規模は1MW(メガワット)。ソーラーシェアリングとしては、日本最大級だ。しかもこのメガソーラーは、決して環境を破壊しない。それどころか、地域の悩みの種だった「耕作放棄地」を美しい農地に変えてしまった。「農地創出」を実現する、究極の環境調和型メガソーラーなのだ。
※メイン写真/ソーラーシェアリングでの耕作を担う農業生産法人「Three little birds」の共同代表、佐藤さん(右)と齊藤さん(左)。
[農業生産法人Three little birds]
太陽光パネルの下に若手農家が集う ここには農業を誇れる取り組みがある
支柱には十分な間隔が確保されているので、農作業の邪魔になることはないという。
シェアリングのために 農業生産法人を設立
ソーラーシェアリングは農業があってこその発電事業だ。そもそも太陽光パネルの下で営農していなければ、制度的にも認められない。耕作放棄地に設置する「匝瑳メガソーラーシェアリング第一発電所」にとっては、農業を開始することが最大の課題だった。 しかし、この課題を乗り越えることは、即ちソーラーシェアリングによる耕作放棄地の解消を意味する。それは、画期的な出来事といって良い。 今回のプロジェクトは、これを実現した。そして、そこには農業生産法人Three little birds合同会社の存在が光っている。同社が耕作委託を受け、パネルの下での営農を担当するという、他所にはないスキームが構築されているのだ。 このThree little birdsは、匝瑳市内で有機農業に取り組む若手農家らによって、ソーラーシェアリングの普及をサポートするために設立された。今回のメガソーラーシェアリングができる前から、「市民エネルギーちば」が手掛ける各種ソーラーシェアリングで耕作を請け負ってきたのだ。その流れがあったからこそ、大規模な耕作放棄地を農地に戻すという前代未聞の取り組みにもチャレンジすることができたのだろう。
パネルがあっても良く育つ 支柱は作業の目印にもなる
「3年ほど前、椿さんと東さんから、ソーラーシェアリングを手伝ってくれる若手の農家を探しているといわれて、有機農業の仲間を誘って話を聞きにいったんです」と、会社設立のきっかけを話すThree little birds共同代表の齊藤超さん。 同じく共同代表の佐藤慎吾さんも、「もともと自然エネルギーに関心があったんですが、市民エネルギーちばさんの一号機を実際に見て、ソーラーシェアリングの素晴らしさを実感しました」と振り返る。実際に耕作を行ってみて、ますますその想いを強くしているということだ。 「何ヶ所ものソーラーシェアリングを経験しましたが、作物の成育にはまったく問題ありません。パネルの日陰で地温が下がり、収量が上がることもあるほどです」(佐藤さん)。 農作業への影響については、齊藤さんが、「パネルの支柱も慣れれば気になりません。むしろ支柱が目印になって、トラクターによる作業がラクになることさえあります。また、パネルの下は涼しくなるので、真夏の作業には助かります」と頬を緩める。
電気もあるし食べ物もある 化石燃料に依存しない農業を
そして2人は、ソーラーシェアリングに対する想いを熱く語る。 「この先、農業機械の電動化が進んでいったら、ソーラーシェアリングでつくった電気で耕作するのが当たり前になってくるかもしれません。自然エネルギーだけでやっていける農業……そんな未来を描ける状況になってきたことが嬉しいですね」(佐藤さん)。 「ソーラーシェアリングで有機農業をしていれば、どんなに化石燃料が枯渇しようが、海外から物資が来なくなろうが心配ありません。そこは電気もあるし、食べ物もあります」(齊藤さん)。 2人の表情からは、ソーラーシェアリングに取り組んでいることへの誇りすら感じられるようだった。
皆で食べる〝まかない〟は、いつも美味しい。食材には、近隣農家からのお裾分けも。
ソーラーシェアリングの作物で加工品をつくる研究を進めている。味噌や豆乳、ビールなど、商品化は目の前だ。
太陽光パネルの下ですくすくと育つ、在来種の大豆「ヒュウガ」の房。
photo: Kumiko Saotome text: Kiminori Hiromachi
(「アースジャーナルvo.5」より転載 ※一部再編集)